し半分にたずね

一行のソリが石の埠頭の近くで停止したとき、波止場の冷たい水面には朝日が低く斜めに射してきらきらと光っていた。もやい綱につながれて揺れたりひっぱられたりしているグレルディクの船のそばで、それより小型の船が一艘、やはりじれったそうに待っている。
 ヘターがソリをおりて、チョ?ハグとシラー王妃に話をしに行った。三人は自分たちのまわりに他人のはいりこめぬ垣根のようなものをはりめぐらして、静かに、真剣に話しあっていた。
 イスレナ王妃はやや平静をとり戻し、背筋をぴんと伸ばしこわばった笑みをうかべてソリに坐っている。アンヘグがミスター?ウルフと話をしに行ったあと、ポルおばさんは寒い波止場を横ぎってチェレクの王妃のソリのそばで足をとめた。
「わたしがあなたなら、イスレナ、別の趣味を見つけるわ」彼女はずばりと言った。「魔法の技術にかんするあなたの才能には限りがあるし、遊び半分にやるには危険な領分なのよ。自分のしていることがわからないと、とんでもないことになるわ」
 王妃は黙ってポルおばさんを見つめた。
「そうそう、もうひとつ。熊神崇拝とは縁をきるのが一番いいと思うわよ。夫の政敵とつきあうなんて王妃にはあるまじき行為だわ」
 イスレナの目が大きくなった。「アンヘグは知っていますの?」と傷ついた声でたずねた。
「知っていてもわたしは驚かないわ。かれは見かけよりずっと利口よ。あなたは裏切りの一歩手前にいるのよ。赤ん坊を何人か生むことね。くだらないことに時間を費したり、厄介事に足をつっこんだりしないですむわ。もちろんこれはほんの一案だけれど、よく考えたほうがいいんじゃなくて。訪問できて楽しかったわ。おもてなしありがとう」ポルおばさんはそう言ってきびすを返し、歩きさった。
 シルクが低く口笛を吹いた。「これで少しよめてきたぞ」
「よめたって、何が?」ガリオンは訊いた。
「近頃ベラー教の高僧がチェレクの政治にちょっかいを出しているんだ。どうやら考えていた以上に宮殿に浸透しているらしい」
1413624W60S10-19604.jpg
「王妃の手びきで?」ガリオンはびっくりしてたずねた。
「イスレナは魔法という考えにとりつかれている。熊神崇拝者たちのおこなうある種の儀式が、彼女みたいなだまされやすい人間には一種神秘的に見えるんだろうよ」シルクはローダー王が他の王たちやミスター?ウルフとしゃべっているほうをすばやく見てから、大きく息を吸い、「ポレンに話しに行こう」と、先に立って、向こうで寒々とした海を眺めている金髪の小柄なドラスニアの王妃に歩みよった。
「妃殿下」と、シルクはうやうやしく声をかけた。
「親愛なるケルダー」ポレン王妃はにっこり笑いかけた。
「わたしにかわって、おじにある情報を伝えていただけますかな?」
「もちろん」
「イスレナ王妃がいささか軽率なことをしたらしい」シルクは言った。「このチェレクで熊神崇拝とかかわりを持っているんですよ」
「まあ。アンヘグは知っているの?」
「はっきりしません。知っていれば認めはしないでしょう。たまたまガリオンとわたしは彼女がポルガラに戒しめられているのを聞いたんでね」
「それが効くといいわね」ポレンは言った。「深入りしすぎれば、アンヘグとしても手を打たなくてはならないでしょうし、そうなったら悲劇だわ」
「ポルガラは手厳しかった。イスレナは言われたとおりにするだろうが、おじに忠告していただきたい。かれはこの種のことを耳に入れておいてもらうのが好きですからね」
「話しておくわ」
「ボクトールとコトゥの熊神教支部にも目を光らせておくようほのめかすといいかもしれないな。こういうことはたいがいつながりがあるから。熊神崇拝はほぼ五十年前に禁止されているんです」
 ポレン王妃は重々しくうなずいた。「必ず伝えるようにするわ。わたしの家来のいく人かを熊神教に潜入させてあるの。ボクトールに帰ったらすぐかれらと話をして、何が進行中かたしかめるわ」
「あなたの家来? もうそんなことまで?」シルクはひやかた。「目をみはる成長ですな、王妃。あなたがわれわれ同様堕落する日もそう遠くはない」
「ボクトールは陰謀でいっぱいなのよ。ケルダー」王妃はきっとなって言った。「熊神崇拝だけじゃないわ。わたしたちの都市には世界中から商人が集まってくるし、その半数はスパイなんですからね。わたしは自分を――夫を守らなくちゃならないのよ」
「あなたのしていることをローダーは知っているのかな?」シルクはずるそうに訊いた。
「知ってますとも。わたしに最初の十二人のスパイをくれたのはかれなのよ――結婚のおくりものとしてね」
「なんともはや、まさしくドラスニア的だな」

この記事へのコメント